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2026.06.13出店戦略

鰻の成瀬に見る、急拡大FCの出店戦略と限界

目的来店型から機会来店型へ変わるとき、立地戦略も変えなければならない

近年の外食フランチャイズにおいて、最も象徴的なブランドのひとつが「鰻の成瀬」です。

職人に依存しない標準化されたオペレーション、手頃な価格帯、非一等地でも成立しやすい出店モデルを武器に、短期間で全国へ拡大しました。うなぎという本来は高単価・職人型の商材を、より日常に近い価格帯とオペレーションに落とし込んだ点は、外食業界における大きな発明だったと言えます。

一方で、急拡大したブランドが一定の再編局面に入っていることも事実です。

ここで重要なのは、「急拡大したから失敗した」と単純に見ることではありません。むしろ、出店戦略上の本質的な論点は別にあります。

それは、ブランドが成長するにつれて、顧客の来店動機が変わるということです。

目的来店型として成立した初期の勝ち筋

鰻の成瀬の初期成長を支えたのは、明確な目的来店性です。

「安くうなぎを食べられる」
「話題の店に行ってみたい」
「近くにできたから一度試してみたい」

このような来店動機が強い段階では、必ずしも駅前一等地である必要はありません。多少奥まった立地でも、Googleマップ、SNS、口コミ、価格訴求によって来店理由を作ることができます。

つまり、初期の鰻の成瀬は、目的来店型ブランドとして強かった

この段階では、「非一等地でも成立する」という出店モデルが合理的に機能します。家賃を抑え、初期投資を抑え、標準化されたオペレーションで店舗を増やす。フランチャイズ展開との相性も良く、短期間での拡大が可能になります。

店舗が増えると、ブランドは日常化する

しかし、店舗数が増えてくると、来店動機は変化します。

最初は「わざわざ行く店」だったものが、次第に「近くにあれば選ぶ店」へと変わっていきます。

これはブランドの失敗ではありません。むしろ、認知が広がった結果として自然に起きる変化です。店舗数が増え、看板を見かける頻度が増え、消費者の中でブランドが日常化すると、来店の性質は目的来店型から機会来店型へ寄っていきます。

ここに、急拡大ブランドの難しさがあります。

目的来店型の時代に通用した立地条件が、機会来店型に近づいた後もそのまま通用するとは限らないからです。

目的来店型と機会来店型では、適した立地が異なる

目的来店型であれば、多少視認性が弱くても成立します。顧客が店を探して来てくれるからです。

一方、機会来店型になると、立地に求められる条件は変わります。

視認性、駐車場、店前交通量、周辺の生活導線、競合との距離、近距離商圏人口、テイクアウト導線、昼夜の需要差。こうした要素の重要度が上がります。

つまり、店舗網が拡大し、ブランドが日常化するほど、出店判断は「目的来店してもらえる前提」から「近くにあるから選ばれる前提」へ切り替える必要があります。

この切り替えが遅れると、過去の勝ちパターンが逆に足かせになります。

「非一等地でも成立する」という初期の成功条件を、すべての商圏・すべての出店フェーズに当てはめてしまうと、店舗ごとの収益性にばらつきが出やすくなります。

来店動機は二択ではなく、グラデーションで見る

ただし、店舗を目的来店型か機会来店型かの二択で分類するのは危険です。

実際の来店動機はグラデーションです。

同じ店舗でも、土用丑の日やキャンペーン期間は目的来店が増えます。新店オープン直後も話題性による目的来店が起きやすい。一方で、平日のランチや日常利用では、近隣住民・勤務者による機会来店の比率が高まります。

曜日、時間帯、キャンペーン、季節要因、周辺環境によって、同じ店でも来店動機は変わります。

だからこそ、出店判断では「この業態は目的来店型だから非一等地でよい」と決めつけるのではなく、自店舗がどの程度、目的来店に依存しているのかを把握する必要があります。

自店舗がどちらに寄っているかを、データで判断する

では、実務上はどう判断すればよいのでしょうか。

重要なのは、顧客アンケートと実商圏の把握です。

たとえば、来店客に以下を確認します。

  • この店を知っていましたか
  • 今日はこの店を目的に来ましたか
  • 通りがかりで入りましたか
  • どこから来ましたか
  • 交通手段は何ですか
  • 比較した店はありますか
  • 来店前にGoogleマップやSNSを見ましたか
  • 何回目の来店ですか

これにより、その店舗が目的来店に支えられているのか、近隣需要や通行量に支えられているのかが見えてきます。

さらに、住所、郵便番号、予約データ、会員データ、Googleビジネスプロフィール、テイクアウト注文データなどを組み合わせれば、実際の商圏範囲も把握できます。

商圏が広く、来店前検索や指名来店が多いなら、目的来店型の性質が強い。商圏が狭く、通りがかりや近隣利用が多いなら、機会来店型の性質が強い。

この見立てによって、次の出店で見るべき立地条件は変わります。

出店戦略で重要なのは、店舗数ではなく切り替え能力である

鰻の成瀬の急拡大は、外食チェーンにとって多くの示唆を与えます。

短期間で店舗を増やせるモデルは強い。しかし、店舗が増えるほど、来店動機は変わる。来店動機が変われば、適した立地も変わる。

つまり、出店戦略で重要なのは、過去の勝ちパターンを繰り返すことではありません。

  • 今のブランドが、目的来店型なのか
  • 機会来店型に近づいているのか
  • 商圏ごとにその比率はどう違うのか
  • 曜日やキャンペーンによってどう変化するのか

これを把握し、出店基準を更新できるかどうかです。

店舗数は成長の結果であって、成長の証明ではありません。

本当に必要なのは、「何店舗出せるか」ではなく、「どの条件なら勝てるのか」を定義すること。そして、その条件から外れる出店を止めることです。

急拡大ブランドの限界は、出店スピードそのものではなく、出店基準を変えるべきタイミングを見誤ることにあります。

出店とは、増やすことではありません。勝てる条件を見極め、再現性のある場所に資源を投下することです。

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