飲食店の売上予測が当たらない理由
— 「客単価×席数×回転率」で計算しても、知りたい答えは出てこない
物件を決めるとき、融資を受けるとき、必ず売上予測を求められます。そして調べると、たいてい同じ式が出てきます。
売上 = 客単価 × 客席数 × 稼働率 × 回転率
この式自体は正しいものです。ただし、これを「予測の方法」として使おうとすると行き詰まります。理由は単純で、いちばん知りたい数字が、右辺にそのまま入っているからです。
公式が答えを先に要求している
客席数は図面で決まります。客単価も、メニュー構成をつくれば概ね置けます。問題は残りの二つです。
稼働率と回転率は、その店が繁盛するかどうかそのものです。つまりこの式は「繁盛の度合いがわかっていれば、売上を計算できます」と言っているに等しい。知りたいのはまさにそこなので、答えを聞かれて答えを返している状態になります。
実際、この式で予測を立てると、多くの場合こうなります。たとえば稼働率を70%、回転率を2.5回転と置く。根拠は「同業の平均がそのくらいだから」。しかしその平均は、立地も業態も客層も違う店をならしたものです。自分の物件がその平均どおりに動く保証はどこにもありません。
予測が外れるのではなく、予測をしていないのです。 願望を数式の形に書き写しているだけ、という状態が起こります。
まず「決まっているもの」と「決まっていないもの」を分ける
実務では、最初にこの仕分けをします。
物件を選んだ時点で、もう動かせないものがあります。
- 前を通る人の数と、その人たちの属性
- 視認性(歩いていて店に気づけるか)
- 到達のしやすさ(階数、入口、駐車場)
- 周辺にある競合と、その充足度
- 席数と、厨房が出せる最大皿数
一方、開けてみないと分からないものもあります。
- オペレーションが回るまでの期間
- 認知が立ち上がる速さ
- リピートに転換する率
前者は調べれば分かります。後者は分かりません。 売上予測でやるべきなのは、前者を徹底的に詰めて、後者の不確実性を「幅」として残すことです。前者を調べずに後者を仮定で埋めるから、予測が願望になります。
立地商圏10の要素では、この「決まっているもの」の側を10項目に分けて整理しています。
点ではなく、幅で出す
実務の予測は、ひとつの数字では出しません。
「月商420万円」と書かれた事業計画より、「悲観320万・標準420万・楽観520万、前提は次のとおり」と書かれたもののほうが、判断材料としてはるかに使えます。前提が明示されていれば、外れたときにどの前提が違ったのかを特定できるからです。点で出した予測は、外れたときに何も学べません。
とくに融資の場面では、審査する側が見ているのは楽観ケースではありません。悲観ケースでも返済が続けられるかです。幅で出すことは、弱気に見せることではなく、事業として成立する範囲を示すことです。
精度をどう考えるか
売上予測に「絶対に当たる」はありません。ではどこまで求めるべきか。
当社では、モデルの説明力(決定係数)と誤差率の両方に基準を置いて運用しています。ただし、この基準はあくまで一定量のデータが揃った複数店舗の場合の話です。一号店の予測には、そもそも自社の実績データが存在しません。
この違いは重要です。一号店の予測は、統計というより類似の読み替えになります。似た立地条件・似た業態の店が、どういう数字を出しているか。その「似ている」の判断精度が、そのまま予測精度になります。だから一号店ほど、モデルではなく立地の読みが効きます。
手法そのものの整理は売上予測モデル入門にまとめてあります。
結局、いちばん効くのは立地の読み違いを潰すこと
予測精度を上げようとして、統計手法の高度化に向かう方がいます。しかし一号店・二号店の段階では、そこはほとんど効きません。
効くのは、もっと手前です。商圏の読み違い、通行量の見誤り、競合の見落とし。 ここでの間違いは、どんな高度なモデルを載せても取り返せません。逆に言えば、ここを丁寧にやるだけで、予測の当たり方は目に見えて変わります。
商圏分析の第一歩と物件現地調査のポイントは、その手前の作業を具体的に扱っています。数字を作る前に、まずこちらを固めてください。
まとめ
- 「客単価×席数×稼働率×回転率」は正しい式だが、予測の手順ではない
- 稼働率と回転率は結果であって、前提に置くと願望になる
- 決まっているもの(立地・商圏・席数)を詰め、決まっていないものは幅で残す
- 点ではなく幅で出す。前提を書けば、外れたときに原因が特定できる
- 一号店は統計ではなく類似の読み替え。だから立地の読みが精度を決める
売上予測は、当てにいく作業ではありません。どこまでが分かっていて、どこからが賭けなのかを、自分で把握するための作業です。
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