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閉店ラッシュを正しく読む:実在ブランドのデータで見る再編の現在地

— 減っているのは需要ではなく、“古い供給”だ

最近、いわゆる「閉店ラッシュ」に関する質問を頂く機会が増えました。「閉店ラッシュ」という言葉は独り歩きしがちですが、数字で見ると実像は“縮小”というより再編の加速です。まず大局観としては、2024年の飲食店倒産は894件で過去最多。なかでも居酒屋は2024年1–11月だけで203件に達し、2020年(189件)を上回って年間最多更新が確実となりました。背景には原材料・人件費・光熱費の高止まりと、コロナ特例の支援終了後の反動があります。

ただし同時に、外食全体の売上は回復基調で、全店舗数も2024年11月に5年半ぶりに前年比プラスへ転じ、その後も持続しています。つまり、「業界全体が沈んでいる」のではなく、勝ち筋に資源が再配分されているのが実態です。

以下、実在ブランドの“動き”を事実ベースで素描します。


ケース1:はなの舞(チムニー)— 大幅スリム化とブランド転換の教科書

海鮮居酒屋「はなの舞」はピークの2014年末に327店。それが2024年5月末には100店まで縮小しています。チムニーの開示資料には、業態転換(はなの舞→魚星 等)や閉店の流れが年次で明記され、計画的な店舗ポートフォリオ再編が読み取れます。直近の月次でも、部門間で出退店を機動的に回し、グループ合計は約475–492店のレンジで最適化を継続。「全部やめる」ではなく「勝ち筋に入れ替える」再編です。

示唆

  • 業態転換は“撤退”ではなく収益動線の再設計
  • 店舗数の絶対値ではなく、部門別の粗利創出力でみる。

ケース2:モンテローザ(魚民・白木屋・笑笑)— “量の削減”で収益性を回復

モンテローザは2019年以降、「魚民」の店舗数を592→337(2024年1月)へと255店圧縮。採算に合わない立地を整理し、固定資産を圧縮することで営業利益率を改善させてきました。東京都内の店舗数もJ-CASTの現地確認で大きく減っていることが報じられています。

示唆

  • “総売上”より“総利益”。粗利額の最大化には“量の最適化”が効く。
  • 「閉める」判断はネガティブではなく資本効率の改善策

ケース3:いきなり!ステーキ(ペッパーフードサービス)— 絞り込みの先に黒字化

居酒屋ではありませんが、外食の大量出店→大量閉店→再黒字化の分かりやすい例。2025年1月時点で175店まで圧縮し、2024年は年9店閉店。その上で価格の適正化・オペレーション見直しを進め、“静かな黒字化”に舵を切りました。会社の月次でも国内店舗数175が確認できます。“出すより引く”が先に来る局面の典型です。

示唆

  • 選択と集中は時間がかかるが、需給が整うと利益体質に戻る。
  • 「何店残すか」より「どの条件の店を残すか」を定義する。

ケース4:ワタミ — 「脱・純粋居酒屋」の戦略転換(宅食/FC/再定義)

ワタミはアフターコロナで、宅食海外、そしてサブウェイの国内マスターフランチャイズといった非・居酒屋の柱を育成。2024年末にサブウェイ事業を子会社化しFC186店舗を引き継ぎ、出退店を伴う再編を進めました。東洋経済も“サブウェイのワタミ”と表現し、収益構造の変化を示しています。直近の月次でも外食は増収増益、店舗は新規6・撤退4など機動的に回転。“居酒屋一本足打法”からの脱却が数字で進行中です。

示唆

  • 「閉店」は撤収でなく再配置
  • 顧客接点(宅食/FC)を複線化すると“景気・制度ショック”に強い。

では、現場はどう動く?(実務チェックリスト)

1)数字の前提

  • 倒産・閉店の報は業界全体の死ではない。地域・業態ごとに勝ち負けが二極化している。

2)店単位の「改善限界」を見極める

  • “赤字だから閉める”でなく、商圏ポテンシャル−現売上のギャップで判断(改善余地が小さい店から畳む)。
  • 畳むと逆カニバリ(近隣店の売上押し上げ)が起きるケースは、必ず事前シミュレーション(ハフモデル、過去事例)。

3)撤退より先に“転換”を検証

  • はなの舞→魚星のように、同じ箱で粗利を上げる業態転換を第一選択に。

4)在庫は“店”ではなく“ブランド”で持つ

  • 魚民のように総量を落として利益率回復、いきなり!のように価格・提供動線の再設計で黒字化――箱の数よりブランドの収益設計にフォーカス。

5)“ランチ1時間勝負”業態の見立てを誤らない

  • オフィス街の店は12–13時で日販の3–4割が動く前提で箱・人・導線を再設計(席割・モバイルオーダー・テイクアウト動線)。
    ※この性質は閉店判断にも直結。ピーク処理能力が上がれば撤退回避もあり得る。

まとめ:閉店ラッシュは「淘汰」ではなく「最適化」

  • Fact 1:倒産件数は“最多”だが、外食全体の売上・店舗数は回復基調。古い供給の縮小と、新しい供給の拡張が同時進行している。
  • Fact 2:ブランド単位では、①大幅スリム化(はなの舞/魚民)②選択と集中で黒字回復(いきなり!)③事業ポートフォリオ転換(ワタミ)が顕著。

次の一手は、

  1. 店舗別の改善限界をモデルで見極め、
  2. 業態転換>統合>撤退の順に検証し、
  3. 余剰資源を勝ち条件の立地・時間帯・客層に再投資すること。

「閉める」意思決定は、守りではなく攻めの経営そのものです。数字で“閉じる勇気”と、“開く知恵”を両立させましょう。

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